突然小さくなった東海道新幹線が、弟の膝の上に座り、おやつを食べていた。
それはもう、いつもの光景なのだが、今日はそのいつもにも増して二人の間には距離が無いように見えるのは、山陽の気のせいでは無い。
カシカシとリズミカルに細長い菓子を齧っている東海道が次は弟の番だと言わんばかりに、その小さな手で持ったポッキーを弟の口元へと運ぶ。
「ん。さんきゅ」
そして、弟も何の躊躇も無いように差し出されたポッキーをゆっくりと齧り、その味を堪能しているようだった。
兄の手からポッキーを食べきると、今度は弟が兄の口元にポッキーを差し出す。
そんな二人の姿を呆然と眺める山陽に気付いた東海道が声をかける。
「何だ山陽。入るのなら、入ってドアを閉めないか。出ていくのなら、さっさと出て行け」
東海道の愛らしい小さな唇からは、ポッキーよりも鋭い針でトゲトゲしている言葉が飛び出しきた。
その後ろで弟も兄の言葉に頷いている。
二人の仲の良さにも切なくなった山陽は、言われるがまま、もう一歩部屋の中に入りドアを閉じた。
東海道が飲食をしている時には仕事の話を持ちかけないようにと、裏からキツクお達しが回っているので、自分も休憩をしようと書類を机に置いた山陽が東海道の真正面に腰を下ろす。
ピクリと、弟の眉が跳ね上がったような気がするのは、気のせいだと思う事にして、一心不乱にポッキーを齧る東海度を何とはなく眺めていると、その視線に気付いた東海道が、何がどうしたのか、持っていた一本を山陽へと向けた。
「お前も食べたいのか?」
「えっ?何?くれるの?」
「いらないのなら、私が食べ…」
「いるっ!いただきます!ありがとうございますっ!」
あの東海道がっ!どケチの東海道が、一本とはいえ、分けてくれるなんてっ!と、東海道の気持ちが変わってしまわないうちにと、山陽が口を開いて顔を近づけようとするが……ポスンと、何か柔らかくて暖かい物に阻まれてしまった。
東海道と山陽の間には、ポッキーのみがあったはずなのに、今、山陽の目の前には、黄色い塊のみが見える。
そして、ポキポキと音を立てて、山陽の口に入るハズだったものが目の前で消えていくのをただ見守る事しかできずにいた。
「どうした?お前も食べたかったのか?そうか。そうか。まだまだあるからな。ゆっくり食べるんだぞ」
山陽に向けていた物とは全く別の、甘やかし全開の声で東海道が語りかけるのは、東海のマスコットでもあるトイカだ。
ぴよぴよと、東海道に可愛らしさをアピールしつつ、チラリと山陽へ向ける視線は、どこまでも凶悪で、山陽を怯えさせるには十分だった。
兄弟で仲良くトイカにポッキーを与えているのを眺めている山陽の旋毛に視線を感じる。
「ぴよ♪」
その声に山陽が顔をあげると、トイカがポッキーを一本加えて可愛く首をかしげていた。
「それが最後なんだぞ。山陽なんぞにやらないで、お前が食べなくていいのか?」
東海道から酷い言われようだが、食べろと言わんばかりに山陽の目の前で上下に振られるポッキーに感激しながら口を寄せれば、ひゅっと音を立てて、それは消え去る。
最後の一本らしきポッキーは、トイカの嘴の中へと華麗に吸い込まれたのだった。
東海道からは何が起きたのか見えなかったようで、すでに温くなっているであろうココアを飲んでいる。
だが、彼の椅子代わりにもなっている弟がバッチリと全貌を見てしまったようで、笑いをこらえるためにも震えているため、飲みにくいと苦情を訴えていた。
トイカにすら弄ばれたと泣きそうになる山陽の襟首を銜えたトイカがぴよぴよとご機嫌で部屋を出て行こうとするが、その場に引き留めようとする者はいない。
「お前のおやつをわけてやったんだ。しっかり遊んでもらえ」
山陽にとってある意味、死刑宣告にも取れる言葉をトイカにかけた東海道は、休憩時間が終わるまで昼寝をしようと、弟の用意した毛布に包まり、膝枕を要求していた。
トイカのおやつタイムは、まだまだ終わらない。
どうしてこうなった!!!Σ(ノд<)
[1回]
PR