【ハジメテ ノ ヒト】
~篠山と東海道本線様ですよっ!~
今、篠山は自分に起きている出来事が理解できずにいた。
何が起きたのか、それすらもわからなかった。
ふらりとやってきた男に最初こそ警戒心も露わにしていたのだが、いつの間にかそれは綺麗に取り払われてしまっていて、更に意気投合してしまい、そのまま篠山の宿舎へと泊まる事にまでなっていた。
宿代代わりだと男が持っていた酒を御馳走になり、二人でほろ酔い気分でふわふわとしていると、その男がじっと自分を見つめている事に気付く。
「どうかし……」
気が付いた時には、口を塞がれ、息も奪われ、そして体中の力がどこからとも無く抜け出てしまう。
「やっぱり可愛いな」
「は?……ぇ?」
口元からだらしなく零れていたどちらかのものともつかない唾液をそっと拭いながら男がそう言った。
自分は押し倒されているが、紛う事なく男で、そして押し倒している相手も男だ。
世の中には色んな趣味趣向の持ち主がいる事は知っているが、自分にその矛先が向くなどと砂の欠片ほども想像した事がない篠山はただひたすら混乱をしていた。
その混乱すらをも楽しそうに、そしてチャンスとばかりに篠山の上着を緩め、そしてはだけていく。
「なっ!お、お前、そっちの趣味やったんかっ!」
「そっち?あぁ。別に。できれば女の方がいいけど、お前のように可愛いのは好きだな」
「…可愛い?俺が?可笑しいじゃろ」
「そうか?」
「そうじゃろ。俺のようなヤツには一番似合わん」
「いいや。お前は可愛いぞ。篠山」
そう言いう男に再び口を塞がれた所でようやく篠山は自分がそういった意味合いで見られていると実感できた。
このまま食われてしまうのかと、抵抗をしたくてももう、既に抵抗する気力も力も奪われてしまった篠山に出来る事は、覚悟を決めそのまま一秒でも早くこの時間が過ぎる事を願うだけだった。
そして、全てが終った後、篠山は……………泣いていた。
「掘られた訳じゃないんだから、泣く事ないだろ」
「う、うるさいっ!そう言う問題やないっ!」
えぐえぐと、布団にくるまる篠山に男がふてくされたように話しかけてくる。
「何だよ。お前だって気持ち良かったんだろ」
そう言われた篠山の肩が、少々大げさなくらい跳ね上がった。
食われると覚悟を決めた篠山は、ある意味確かに食われた……が、それは篠山が想像していたものとは別の意味で、篠山は言葉にするなら抱かれた訳ではなく、抱いた側になる。
ただし、ほぼ襲われた状況で、だが。
右も左もわからぬうちに押し倒され、欲望を育てあげられ、そして乗っかられ……と、実に刺激的な一夜であった。
「男は別としても、始めてじゃないし、そんなに泣く事か?」
「っつ……はじ………ほ、ほっとけ」
男の言葉に篠山の目からは滝のような涙があふれ出し、それで全てを察した男はバツが悪そうに視線をいくらか逸らした。
「あ~~~。それは、悪かったな。でも、良かっただろ?」
その一言に篠山の頭の先から、布団からはみ出ている足の先まで一気に赤く染まったのを見て笑い出しそうになるのをどうにかこらえる。
おそらく怒りよりも恥ずかしさにぷるぷる震える篠山を布団越しに強く抱きしめてもう一度言う。
「やっぱり、お前は可愛いな」
篠山のハジメテを奪った男が、実は東海道本線であった事を知るのはそう遠くない未来の出来事である。
その奪ったハジメテが、どこからの範囲なのかを篠山が口を割る事は決してなかったらしい。
おわっとけー
なんかもう、色々すみません。反省は……してます。