【5月5日はこどもの日!】
~東海道さんと、一区と二区~
遅番の東海道が何でもいいから早く出て来いと京浜東北から呼び出しをされ、何事かと出勤してきたのは、ほんの少し前の出来事だ。
自分や、兄の路線に何かあった訳では無いので、一体何事があったのかと東海道が控え室のドアを開けると、そこには普段と変わらぬ見慣れた光景………だけではなかった。
「はよーっす。何があったんだよ?」
「あ。東海道」
京浜東北の声に一斉に向けられる視線に、東海道が僅かながらに動揺していると、それらも同じく一呼吸置いて反応をする。
「「とぉかいどぉさぁぁぁ~~~~んっ」」
どすんと、重い一撃を食らったような衝撃を受けたが、どうにか踏みとどまった東海道が、その原因でもある小さな固まりに視線を向けた。
左右から腰の辺りにガッチリとホールドをしているのは、実に懐かしいと思われる感覚だった。
子供の物であろう小さな頭が二つ。東海道にびったりと張り付くようにして抱き着いている。
「えぇっと……」
説明を求めて京浜東北を見るが、彼もわからないとばかりに肩を竦めるだけだ。
どうしたものかと、その小さな頭を撫でてやると、同じタイミングで顔を上げ、そしてそれは東海道の予想通りの見覚えのある顔だった。
「一区と二区……」
それは、今では自分の身長などすっかり追い抜いた同僚のかつての姿。
思わずそう呼んでしまった東海道だが、まさかそんな事がある訳もないと、二人に改めて名前を聞こうとしたが、どうやら正解だったらしく、自分達を知っている相手がいる事に安堵したのか、見上げてくる大きな瞳からボロリと大粒の涙が零れ落ちた。
「「うわぁぁぁんっ」」
それを切っ掛けに、盛大な鳴き声を上げて東海道にすがりつく二人に周囲は興味深そうに見ているだけで、助けなど入らない。
むしろ、後は頼んだとばかりに、それぞれの仕事へと向かってしまった。
残された東海道も一緒に泣きたくなるが、とりあえず話を聞こうとその辺りにある椅子に座らせようとしたが、離れる事を嫌がった為、休憩スペースのソファに東海度を真ん中に挟むようにして座る。
「なんで、お前ら……」
「わかんないです。起きたら、一区じゃない人が隣で寝てて…」
「俺も、知らない人が……」
泣きながらも、どうにか説明をする二人から事情を聞き出していると、所々で不可解な事を告げる事に気付く。
「なぁ、お前ら気が付いた時に、別々だったのか?」
そう尋ねる東海道に、コクリと、揃って頷いた。
「誰の所に……」
東海道の疑問に今度は、ふるふると首を横に振って答えた。
その時、余程怖い思いをしたのか、二人が東海道に縋る手に力が入る。
せっかく緊張が解けてきたのに、この質問は失敗だったと東海道が考えている所に、ドアが勢いよく開かれた。
「何?まだいたんだ」
「おい、止めとけよ。一応俺ららしいんだぜ」
「知らないよ。僕達ここにいるじゃない」
「だとしても、子供相手に凄むなよ」
不機嫌露わな宇都宮と、普通に人相の悪そうな高崎の登場に、彼らのかつての姿をした子供達はビクリと盛大に体を震わせる。
てっきり、宇都宮と高崎の二人が揃って小さくなってしまったのだとばかり思っていた東海道は、二人の登場にただ、驚くばかりだが、どこか冷静に、子供達が最初に出会ったのが、それぞれの未来の自分なのだろうと予想した東海道だが、それが何の解決策にもならない事も理解していた。
「お前らも、いたのか」
「何?いたら不味かったかな?あぁ、東海道もどこぞの本線と同じで小さい子が好きなんだっけ?」
決して狭くはない控え室の中に絶対零度のブリザードが吹き荒れていると感じたのは、気のせいではないのだろう。
その証拠に、子供達の暖かい腕が東海道の首に左右から回され、キツク、キツク締め上げられているのだから。
これらの事態が収集するのに、十日ばかりの日にちが必要になるとはこの時誰も知り得なかった。
おわっとけー