同僚には毎年手作りチョコが渡されていると知って、自分の分は?と遠回しに強請ってみたら、華麗にスルー。
ならばと、直接欲しいと交渉をしたら『他からあんなに貰っているくせに、まだ欲しいんですか』と、義理ですら貰えずに終る。
だったらと、お断わりできるものは全て断って、再び交渉に挑めば、呆れた顔をして翌日に割引シール付きをくれた。
十四日当日に欲しいと泣きついてみたが『十四日を過ぎないと安くならならないじゃないですか』と、実にイイ笑顔でバッサリと言い切られてしまった。
次はどうしようかと、夏の帰省シーズンよりも、秋の観光シーズンよりも、山陽は作戦を練るが、どれもこれもが失敗に終る事が手に取るより容易く想像できる。
多岐に渡る自分会議の結果、最終目的は、二つ。
一つ目。二月十四日のバレンタインデー当日にチョコレートを貰う。
二つ目。当然、そのチョコレートは、手作り。
これだけは譲れないと、会議に出席した全員が声を揃えた。
その両方を満たす結果を欲しがっても、二兎追う者は一兎も得ずと言う諺にも倣ってその中でも優先順位を決める。
より確実に実現できそうなのはどちらなのかと、更なる自分会議を重ねた結果、二つ目の手作りチョコレートに決定した。
色々考えた結果、東海道が彼の兄宛に作るであろう間近に控える十四日以降のスケジュールを確認しようと、善は急げとばかりに山陽は、終業後の執務室へと足取り軽く舞い戻る。
誰もいないはずの執務室から人の気配を感じて、そっと様子を伺うとそこには、見慣れたオレンジがいた。
「あっれ?ジュニア?何か、あった?電気も付けないでさ~」
彼がこんな時間に自分の執務室にやってくるなど、何か急ぎの書類でもあったのかと電気を付けて駆け寄ると、山陽の声にビクリと跳ね上がるようにして驚いた様子の東海道が振り返り、そのままの勢いで近寄ってくる。
「アンタが欲しがっていた物です。これで、今年の義理は果たしましたからっ!おやすみなさい!」
そう言って、手に持っていた小さな包みを山陽に押しつけるようにして手渡すと、部屋から出て行ってしまった。
残されたのは、山陽と、その手に乗せられた、【義理ちょこっこ】と描かれたチョコレート菓子のみ。
義理と書かれていても、あの東海道が割り引きになる前にチョコを用意してくれて、結果的には直接となったが、十四日当日に山陽の手に渡るように考えてくれていた事に、感激する。
「これは、もう。山陽さんも頑張ってジュニアにお応えしないとね!」
どうにかして今晩東海道を捕まえて、チョコレートよりも甘く溶かしてみせると、手の中にあるプレゼントに誓う。
ひとまず先にチョコだけ山陽の部屋へとご招待とばかりに、浮き足立つのを隠さないまま部屋へと戻る。
数時間後、東日本から西日本までの大掛かりな鬼ごっことなるが、山陽の粘り勝ちになる事は、おそらく手の中にあるチョコと同じように決まっているのかも知れない。
【終】
これを早朝に送りつけられ、さんよさんに同情したkanataさんが、幸せ一杯なポストカードを描いてくれました!
良かったね。山陽さん(笑)
[3回]
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