自分で言うのも何だと思うが、不思議な人だった。
目の前にいれば、これでもかと言わんばかりの存在感なのに、ふらりとどこかへ出かけてしまっている時は、それを誰にも気付かせない。
そして、今日もまた……
「東海道!丁度良い所に。土産だ」
無事に業務を終え、東海道が宿舎へと戻ってきた所で声をかけられる。
振り返ると、そこには何やら楽しそうな様子の本線がいた。
「ありがとう?」
東海道が受け取った紙袋の中身は、見覚えのあるロゴか書かれた箱だった。
だが、それを本線から土産として貰うには、店の場所に問題がある。
促されるままに部屋に入り、テーブルの上でその箱を開けると、そこには東海道の想像していたものと目が合ってしまった。
JR東海の系列会社で製作され、名古屋駅の二店舗のみで販売されているヒヨコを模ったプリンケーキだ。
そのヒヨコの目と、東海道の目がばっちり、がっちりと合ってしまっている。
「可愛いだろう?名古屋の駅で売っていた」
「まさか、名古屋まで行ったのか?」
「あぁ。新幹線は、本当に早いな。夢の超特急とはよく言ったものだ」
子供の用に目を輝かせて本線が箱からケーキを取り出した。
「あれ?なんか、違う?」
東海道の目の前に置かれたケーキは、彼の記憶している物と少々デザインが異なっていた。
「あぁ、こっちは期間限定らしい」
黄色い羽が黒く、そしてトサカの代わりに、とんがった帽子のようなものが乗せられている。
そして、白い物体が張り付けられていて、それが何かと考えてると、本線が東海道にずいっと近づき、この時期のお決まりのセリフを言ってきた。
「そうだ。東海道。Trick or Treat!」
その綺麗な発音に東海道の目が見開かれる。
「知っていたのか?」
ハロウィン自体が世間に定着したのはそれほど古い話ではない。
本線が知っている事に素直に驚いた。
「忘れたか?あの人がいた頃は、毎回大騒ぎだっただろう」
「そうだったな」
遠い昔、鉄道の父と呼ばれた彼の人がいた頃を思い出ししんみりとしかけた空気を振り払うように本線が再度尋ねる。
「それで、どっちにする?お菓子か、いたずらか」
どちらを取るのか、興味深そうに見つめられた東海道は、ほんの少し考えた後、同じように口元に笑みを浮かべた。
「そうだな……これなら、両方。だろ?」
そう言って、ケーキにデコレートされていたクッキーを摘まんで、軽く唇に挟んだ東海道は、そのまま本線へと顔を寄せる。
「確かに、両方だな」
東海道の意図を正確に読み取った本線も顔の距離を近づけ、クッキーと東海道の唇を味わう。
そんな彼らの様子を、ヒヨコケーキのつぶらなチョコレートの瞳は眺めていた。
おわってまえー
周りがちったいたんブームの中、空気を読んでおっさんどころか、年齢だけならご老体な二人をセレクト。やったね、俺!
Mさん、お誕生日おめでとうございます(*´∇`*)
[5回]
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