西日本にある執務室で、仕事をしているとどうしても話題が去年直通運転を始めた九州の事が多くなる。
自分の兄と、その元姉妹特急であった九州。どちらも癖の強いタイプに挟まれた山陽は正に中間管理職。板挟み状態で毎回泣かされている。
そして今も、自分の城と言う山陽専用の執務室で書類を捌きながら、直属の部下でもある東海道本線に愚痴をこぼしていた。
「もうさぁ…ちょっとあの二人なんとかならないかねぇ」
「はぁ……」
どうやら今日は、内に溜まった鬱憤をはき出したいようで、東海道が適当な相づちを打っていても、そのまま勝手に話し続けている。
「もぉ、山陽さんだって限界ですよ。泣いちゃうからね」
いったい誰に向かって言っているのか、もはや不明な山陽の愚痴はまだまだ続く。
机の上に広げられていた書類は綺麗に処理され、それらをファイルに閉じてグッタリと伏せた。
「まだ就業時間中ですよ」
「もー。ジュニアまでそんな堅いこと言わないでよ」
東海道に仕分けたファイルの一つを渡すと、直ぐに中身を確認する。
「確認しました。ありがとうございます」
「はーい。お疲れさん」
体は机に伏せたまま、山陽は顔だけ上げる。
「何、ジュニアもう行っちゃうの?」
「えぇ。この後東海で会議が入ってますから」
「何だよ。昼飯だけでも付き合ってよー」
一人ご飯は寂しいだろと、小さな子供のようなことを言う上司に絆されかけるが、何分時間が無い。
今日の会議は、東海道の兄が直々に開催すると言い出したのだ。
自分の路線の運行に何か異常が無ければ、東海道がその会議に欠席する事など考えも及ばない。
山陽もそれがわかっているので、口ではぶーぶー文句を言いながらも、強く引き留めようとはしない。
それでも、やれ寂しいだの、ジュニアが不足しているだのと喚き続けている唇が、小さな子供のように尖らせているのを見て、出かけに埼京と山手辺りが盛り上がっていた話題を思いだした東海道は、ドアに向かいかけた足を再び山陽がいる方へと向けた。
当然そのまま出て行く物だとばかり思っていた山陽は不思議そうに東海道を見上げる。
「何か忘れ物?」
「忘れ物ではないですけど、思いだしたので……」
そう言うと、東海道の顔は山陽に近付き、そして唇が掠めるようにして触れあった。
山陽がキスをされたと気付いた時には、東海道はドアの外に立ち、鮮やかな笑顔で振り返る。
「今日は、キスの日なんだそうですよ。俺、東上がりなんです。今日中に会えたら、もっとしてあげますよ」
「………え?」
椅子を倒す勢いで立ち上がった山陽を置き去りにして、東海道はセントラルへ向かう。
これから終業まで、いつも以上に何事もなく運行できるよう祈っていたことは、本人しか知らない事だ。
「…あ。俺、今日は最後までだった」
今日中に仕事を終えれない事を失念していた東海道は、それを知った山陽をどうやってなだめるかを考え始める。
「やっぱり……キスかな?」
キスの日は終ってしまったが、それに拘らなくても構わないだろうと、気持ちを切り替えて自身の路線へと向かった。
ただ、東海道の予想に反して、早い時間に山陽が気付いてしまい、携帯が鳴り響くことはまだ知らない。
おわり。ごめん。何か、リクと違った!
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